『ツツイストが送る。筒井康隆! 初心者向け筒井康隆をご紹介します。』
筒井康隆という作家を知っているだろうか。
作家名を知らずとも作品名はおそらく聞いたことがあるのではないかと思う。
ドラマやアニメで有名な『時をかける少女』は筒井康隆のものであるし、今敏監督の遺作である『パプリカ』や幾度もドラマ化されている『七瀬シリーズ』、最近アニメ化された『富豪刑事』、Tiktokで話題になった『残像に口紅を』など有名作品を上げていけばキリがない。
(正直な気持ちを書きます。わたしはこのブログやTiktokみたいなもんで本を紹介して、そんな杜撰な紹介で、一冊でも本を読む人が増えたらうれしいと思いますね。Tiktokなどで起こるのは一時の嵐。でもそんな一時の嵐を起こしてくれる人がいなければ、冷え込んだ出版業界はべたなぎのままです。書評が書けない?書けない人も紹介したっていいじゃないですか。)
そんな有名作家である筒井康隆だが、最初に手を取る作品を間違えると、読むのをやめてしまうような事態が起こりえる。
というわけで今回は初心者向け作品を紹介する。
筒井康隆は幅広い。
きっと手に取ってみたいと思えるものがあるはずだ。
私は筒井康隆の中でも最も優れた仕事は短編だと考えている。
皮肉たっぷりの奇怪でナンセンスな世界観はたまにミソジニーが混じっていることもあるが、それを差し引いても非常に魅惑的なものである。
そして最初に手に取るのにおすすめなのはこの一冊。
『笑うな』だ。
『笑うな』の中には30以上の短編が収録されているが一つ一つは短い。
いくら忙しい人であっても毎日三篇ずつくらいなら読むことができるだろう。
この超短編集の中でも特におすすめなのは『猫と真珠湾』というもの。
作家が小説の技法についてのコラムを書くことになるのだが、その書き出しや文体が決まらない。あらゆる文体や切り口でコラムを書きだすのだが、すぐに破り捨てていくというもの。
表題である『笑うな』も面白い。タイムマシンを作った男の話なのだが、彼らは直前の出来事を笑うためにそれを使う。ナンセンスなものが好きならばきっとはまる作品だろう。
続いてはまた超短編から。
『くたばれPTA』である。
こちらも文庫本に30篇ほど収録されているが、こちらの方が『笑うな』よりも過激かなという印象。おすすめは表題の『くたばれPTA』
こどもに人気のSF漫画家がPTAにバッシングされ、大悪人のレッテルを貼られるという内容である。
私がこれを読んで驚いたのはコレ永井豪が『ハレンチ学園』で大バッシングを受けるより前の作品だということだ。
(知らない人のために捕捉すると、『デビルマン』『マジンガーZ』『キューティーハニー』の永井豪先生は当時微妙だったジャンプで『ハレンチ学園』という元祖お色気作品を書いてPTAに大バッシングされた。ちなみに永井豪ファンクラブの一号会員は筒井康隆。)
「大体30‐100Pくらい。短編中編をご紹介」
超短編はとりあえずこの二冊ということで。次は短編~中編くらいのものを紹介。
まずはこちら
『懲戒の部屋』
少しミソジニーが強い本作だが、そこに目をつむればナンセンスホラーとして非常に質が高い。
中でもおすすめなのは『走る取的』。
内容はその名の通り取的が走って追ってくるというもの。特に理由は語られないがその意味の分からない恐怖はやはり筒井康隆と言ったところだろう。
(『世にも奇妙な物語』でドラマ化されてます。)
『顔面崩壊』も一風変わったSFホラー。
シャラク星という星は気圧が低いので圧力鍋を扱うと破裂してしまうことがある。そしてその鍋から飛び出た豆が顔に食い込んで取れなくなり、蛆がわいてそして・・・という内容だ。
顔面が崩壊していく様が詳細に綴られて、読んでいるだけできっと背筋が凍る思いをするはずだろう。SFで現実とは遠い出来事であるはずなのだが、なぜかリアリティを感じてしまう。これが筒井節なのである。
また短編集であるならば。『パロディ編』もおすすめしたい。
『日本沈没』のパロディである、『日本以外全部沈没』はあまりに有名なのでわざわざ紹介しなくてもいいと思うので、別のものを紹介しよう。
『モダン・シュニッツラー』という作品はウィーンの作家である、アルトゥール・シュニッツラーの『輪舞』のパロディ。
輪舞とは男女がペアを次々と変えていく踊りであるが(想像できない人はマイムマイムみたいなもんだと思えばいい。)、この作品内では一人一人男女が鎖のように肉体関係を持っていき、最後には一つの輪になる。
『輪舞』のほうでは、娼婦、兵隊、小間使い、若主人、若奥様、夫、可愛い少女、詩人、女優、伯爵という様々な身分立場の人が一つの輪舞をなしているわけだが、筒井はやはりSF作家。筒井バージョンでは、宇宙飛行士、ダッチロボット、農夫、鶏、生物学者、コンピューター、プログラマー、庖丁人、宇宙、宇宙船である。
戯曲形式だが、鶏はもちろん「コケコッコー」のようにしか鳴かないし、コンピューターもゴトゴト音を立て、コードを送ってくるだけである。
では宇宙と宇宙船の性行為は?
ぜひ読んで確かめて欲しい。
『時をかける少女』
まあ有名作品なのでこれも。
邪悪で腐った肉の臭いのするどす黒い作品ばかり書いてきた筒井康隆ではあるが、『時をかける少女』からはあまりそんな臭いはしない。
老若男女問わず誰でも読める作品であろう。
ただこれを他の筒井康隆に求めてはいけない。『時をかける少女』はかなりイレギュラーな作品であり、他の作品は基本的に邪気に溢れている。
ただこの作品が筒井史上一番売れているというのも事実。タイムリープものはやはり人気なのだろうか。(なら『笑うな』も爆売れしてもいいんじゃないかな?)
「長編!筒井康隆決定版!」
最後は長編のご紹介。
最初はこれ。
『旅のラゴス』
まあこれも他の筒井の作品と比べるとあんまり筒井ぽくない。
ただ話の筋がきっちりとしていて、伏線回収も見事。
また世界観もSFとファンタジー世界を融合したような感じでワクワクさせるし、「壁抜け人間」のような筒井ポイ奇怪な設定も魅力的だ。
筒井ぽさと骨太な筋がしっかりと絡み合った本作。
筒井初心者にはいい入口になるだろう。
『七瀬シリーズ』
『家族八景』『七瀬ふたたび』『エディプスの恋人』の三部作。
この順番なので間違えないように。
(というのもわたしはドラマ『七瀬ふたたび』のせいで、『七瀬ふたたび』だけで完結するものだと思い込んでいたんですよ。)
テレパスを持つ女性七瀬を主人公としたESP物のシリーズなのだが、三部作でずいぶん色が違う。
最初の『家族百景』は『家政婦はみた』みたいなお話。テレパスの七瀬が各家庭のお手伝いとして働く。
『七瀬ふたたび』はお手伝いものではなく、他のテレパスや予知能力者などほかのESPに出会う。最後衝撃の展開で幕を閉じるので「え?ここから続くの?ってなる。」
最後の『エディプスの恋人』はまたまた切り口が異なる。
あんまり紹介するとネタバレになってしまうが、宇宙全体の創造神のようなものが出てきたりする。
また七瀬シリーズは文章表現が面白い。
特にエディプスでは文章において遊び心満載な仕掛けが数多く存在する。
例を挙げておこう。
「茶の間が七瀬への悪意でいっぱいになった。(自分だけが清潔だという優越感を持っていやがる)(ヌード写真だけは、そのまま置いときやがった)(いや味だ)〈中略〉やがてその悪意は反動的に、不潔な自分、そして自分をもこんなに不潔にした、より不潔な自分の家族へと向けられ始めた。(おふくろがずぼらだからいけないんだ)(おやじがおふくろを甘やかしすぎたんだ)」[1]
筒井康隆がライトノベルを執筆したということで当時衝撃を与えたという本作だが、内容はいつもの筒井である。
超絶美少女(いとうのいぢ絵)が精液を研究するという内容の本作。挿絵も文体もたしかにライトノベルぽいのだが、こんな皮肉な内容のライトノベルがあってたまるかという感想を持った。
ただ筒井康隆ほどの巨匠がライトノベルの文体、文法を用いて執筆するということにはやはり大きないみがあるだろう。
筒井康隆がオタクになにを見たのか。
アニメなどの二次元美少女にはまるオタク。そんな人たちへの強烈な皮肉が込められている。
初心者向けというとこの辺になるだろうか。
もちろん筒井康隆読んだことありません、本すら読みませんというひとであっても、いきなり『文学部唯野教授』や『虚人たち』を手にとってもいいだろう。
(エイズの扱いに問題ありだが、文学理論を学ぶ足がかりにはなる。)
(まあこれもよみやすい。ミステリー好きならどうぞ。)
ただとっつきやすさというものはやっぱりあるのでとりあえずこんな感じで。
きっと私の選んだ筒井康隆という記事もいつか書くはず。
そしたら『虚人たち』だとか、『読者罵倒』だとかについて書こうと思う。
それでは。