『広島長崎の被爆者から目をそらしたオッペンハイマーの不安』
お久しぶりです。
Z世代の代表RYANAです。
前回一号が『バービー』ついて記事を書いてから随分時間がたってしまいました。
そんな私のブログの怠慢期間と同じくらいの時間をかけてやっとのことで公開されたのが・・・・・・・・
『オッペンハイマー』
オッペンハイマーと言えば去年バービーと並びブロックバスターを超えるメガトン級の大ブームを起こした作品。
アカデミー作品賞や監督賞等をかっさらい2023年を代表する映画と言っても過言ではないでしょう。
(原案になった伝記 これも読んでみたくなった。)
そして公開が遅れに遅れた日本ですが、ついに3月29日に公開。
早速鑑賞してきたので、ちょっとした感想とオッペンハイマーにおける核兵器の描き方について分析してみましょう。
評価
まず評価なのですが、アカデミー賞受賞に恥じないまごうことなき傑作です。
ポイントとしては
1.3時間あるのにも関わらずテンポよく物語が進み、緊張感が保たれていて、中だるみすることがないこと
2.1を成り立たせるために時系列があちこちに飛び回るのですが、それでいてテーマがしっかりとしているので物語の理解がしやすいところ
3.量子力学の抽象的な理論のミクロのイメージや実験における大爆発の映像化に成功していること
4.イメージの巨大感やミクロ感を喚起させる音響
等々でしょう。ほかにもいろいろといいところはあるので、その辺はぜひ自分の目で確かめてみてください。
これから鑑賞する人に向けて
マンハッタン計画に参加した科学者や主導した軍人の名前をある程度調べていった方がいいです。あと赤狩りの知識もある程度は欲しい。
そしてこの映画、ネタバレもくそもないです。
史実がベースなので映画側もある程度は知っているだろうという前提で物語を進めていきます。
オッペンハイマーが原子爆弾を作ったこと、水爆に反対したこと、共産主義者とのかかわりから、ソ連のスパイ疑惑を持たれて詰問されたこと等々については知っておいたほうがいいでしょう。
(ここにまとまっている)
オッペンハイマーは確かに名作ではあります。しかし世界唯一核兵器で虐殺された歴史を持つ日本人からすると、核兵器への問題意識について疑問に思えるような点があるのも事実です。
たしかにこの映画広島や長崎について言及はあるものの、映像としては全く登場しません。核兵器の非人道性や危険性等について訴える映画であるならば、実際の被爆がどのようなものなのかについての言及があるべきなのですが、ほとんど登場しません。
そしてそうした被爆者を隠した映画の描写について、日本からは批判的な声も上がっています。
(ちなみに被爆者自体は映らないがオッペンハイマーが被害状況を見て顔をそむけるシーンがある。)
率直言いましょう。この映画は広島や長崎で被爆した人への関心は見られません。
(広島長崎への言及はあるがそこは主題になっていない。)
確かに核兵器への問題意識が含まれています。
しかし後悔ではなく不安を題材にした映画なのです。
この映画において焦点が当てられているのは、核兵器を開発したことで世界はどう変化したのかというところであり、実際の被害者に関しての関心は低いのです。
例えば、劇中で広島や長崎での大量虐殺ののち、オッペンハイマーは顔が焼かれた女性の幻覚をみるのですが、それは虐殺された日本人ではありません。そしてこの顔が焼かれた女性を演じたのはノーランの娘なのですが、そうしたところからも過去への後悔ではなく、身内が未来に焼かれることへの不安が主題であるとわかるでしょう。
ここからは考察ですが、ノーランは核兵器の問題について放射線による被爆等の非人道性ではなく、世界を破壊する力を持っているということについて関心があるのではないかと思います。
(そういう意味でノーランは相互確証破壊を確立した水爆と原爆を明確に区別している)
劇中では核実験をおこなえば大気に引火し世界中に燃え広がる可能性が示されます。そうしたリスクを認識しながら、オッペンハイマーはトリニティ計画を進めるのです。
オッペンハイマーは世界を破壊する可能性を知りながらなぜ原爆を開発したのか。そしてなぜ実際に世界を破壊するポテンシャルを秘めた水爆に反対したのか。
そうした彼の人生の矛盾を描きながら、世界を破壊するトリガーを引いた男の不安を描いた作品なのです。
最後に
『オッペンハイマー』は確かに映画として傑作なのは疑いようがない事実です。
しかし核兵器の問題の取り扱いとしては、SFに寄り過ぎている気がしないでもないです。核兵器は確かに世界を破壊する力を秘めてはいますが、実際に使用されるとしても必ずしも報復の応酬になるとは限りません。核兵器を持っていない国に向けて核保有国が使用し、国際社会は保身から非難に留まるという可能性もゼロではないでしょう。
世界を破壊してしまうという相互確証破壊はたしかに悲惨です。しかし核兵器の非人道性はそれだけではありません。『オッペンハイマー』が広島や長崎や実際の被爆から目をそらし、世界が破滅するという未来への不安に転嫁したことは作品のテーマを狭めてしまったと言えると思います。
(核実験によって被爆した人もいるのだ。ちなみにトリニティ実験での被爆者を米国は認めていない)
しかし何度も言うように傑作映画であることは事実です。
この映画を機に核兵器への関心が世界中で高まったこともまた事実。
食わず嫌いはやめてとりあえず鑑賞してみましょう。
それでは~