Hi Barbie!!
お久しぶり。一号です。
夏も終わりという今日この頃ですが、今年の夏の映画は大作ぞろいでしたね~
6月には『リトルマーメイド』、『インディ・ジョーンズ』『ミッションインポッシブル』から『マイ・エレメント』
そしてなんといっても大本命は
『バービー』
全米どころか全世界でものすごい動員数です。
『スーパーマリオ』のアニメ映画(「マリオの映画」とは魔界帝国を指すのです)の記録を軽々と抜き去って2023年公開の映画では全世界一番の大ヒット作品となるのはほぼ確定
米国では『オッペンハイマー』も含め多くの大作がひしめき合う中でも公開でしたが、そんな状況を吹き飛ばすメガトン級の大ヒットでした。
(プロモーションがやらかしたので日本ではいろいろ騒ぎになっていましたが……『オッペンハイマー』もはやく公開してください。)
そんなブロックバスター(イギリス軍が空爆に用いた爆弾。都市の一区画を吹き飛ばすほど強力な故にこんな名前に。転じて客を町から根こそぎ動員できるような大作映画を指す言葉になった。)を超えて・・・
たとえが思いつきませんが、とにかくものすごい大ブームになっているということ。
そんな今年を代表する作品にも関わらず、日本ではなぜか爆死
本国の広報が不勉強だったのもありますが、そもそもバービー人形自体が日本ではそこまで人気ではないので致し方ないのかもしれません。
でもとっても面白い作品で老若男女だれもが楽しめる傑作なんです。
ということで、今更ながら見てきたので軽い感想を共有したいなと思います。
映画『バービー』は実存主義?
(ネタバレ無し)
「バービーランド」と現実世界のような「リアルワールド」で繰り広げられるコメディです。
バービーランドは何人かの「バービー」たちと複数の「ケン」たち、そしてケンの友人である「アラン」やその他マテル社(おもちゃ会社。バンダイみたいなもん。UNOの権利を持ってる)から発売されたバービーのキャラクターたちが暮らしている世界。ちなみに町中ピンクだらけの街です。
そしてそこは死も老いもない「完璧な世界」で複数のバービーたちが大統領になったり、医者になったり様々な仕事をして楽しく暮らしていました。(ちなみにバービーにもケンにも生殖器が付いていません。)
しかしある時主人公であるバービー(いわゆる伝統的なバービー・マーゴット・ロビー)はある考えに取り憑かれます。
「死」について考えるようになったのです。
「死」について考えた次の日、バービーの完璧な身体にはセルライトが出来てしまい、いつも履いていたヒールも歩きにくいものになってしまいました。
そこでバービーランドのはずれにある事情通のバービーに話を聞きに行くと、「リアルワールド」のバービーの持ち主になにかがあったために、主人公は「死」を考えるバービーになったのだと言います。そして持主に会いに行くために主人公のバービーとケン(ライアン・ゴズリング)は「リアルワールド」に向かうことになるのです。
「死」について考え、「バービーランド」とは全く違う「リアルワールド」を体験して、バービー、そしてケンはどんな行動を起こすのか。
ハチャメチャエキサイティングだけど知的。
そんな映画です。
アイロニカルなで複雑な展開 『バービー』は何を表現したのか
(ネタバレあり)
『バービー』という映画、コメディ作品で、しかもおもちゃの映画化なので、それなりのものではあっても無難な出来なのではないかと考えるひともいると思います。
しかしそこはグレタ・ガーウィグ監督。
非常に込み入った物語をこの題材でやってのけてしまったのです。
そのため日本語圏においても感想はバラバラで、ひどいものだと真逆のことをそれぞれ主張していたりします。
そのため本ブログでもすべての人が納得できるような感想ではないとは思いますが、ちょっとした解釈をここに羅列していきたいと思います。
冒頭は『2001年宇宙の旅』のパロディ。その意味は?
初手で爆笑ポイントです。
「女の子向けの人形と言えば子育て人形しかなかったところにバービー人形が彗星のごとく現れた」という説明から始まるんですが、そこがパロディなんです。
『2001年』は神話的な映画で、モノリスという石?に触れたことで類人猿が道具と殺人を覚え人間に進化する。
そしてその人間が月にたどり着いた時にまたモノリスを発見し人類の次なる段階へと昇っていくという冗長で退屈な(でもかっこいい)映画。
そして冒頭に類人猿パートのパロディを持って来た『バービー』。
これは単純に良妻賢母的な旧時代の理想から、自分自身を着飾る自立した女性という理想へとこどもたちの憧れがシフトしていくことの象徴としてバービーがあったという表現なのでしょう。
つまりバービーとはフェミニズム的な観点においても当初は先進的なものであったともいえるのです。
現代の観点からすれば、コールガールのキャラクターをモデルにしたバービーにたいして先進的であると評する人はあまりいないでしょう。
しかしかつてボーボワールがブリジット・バルドーを賞賛したように、バービーのような女性がそういった意味で賞賛された時代は確かにあったのです。
(一応過去記事を...ロリータとフランスリベラルの記事です)
しかし「リアルワールド」においてバービーは女の子にとって理想的な身体を押し付けるファシストであると糾弾されるシーンがあります。
時代の無常さともいえるこのシーンですが、描き方が非常に多層的で面白いところです。
バービーのように「スタイル抜群の白人」のおもちゃであそぶことによって理想が刷り込まれ、コンプレックスを抱えて苦しむ人が増える。またはその理想を掲げて「理想的でない」体型のひとに対して見下した視線を向けるようになるという意見に賛同する人は少なくはないでしょう。
しかしそういったWokeした人がバービーのような人に対してファシストという言葉を投げかけることは正しいことなのでしょうか。実際劇中でバービーはショックを受け、意気消沈してしまいます。
もともとがコメディタッチな作風なのでこのシーンは非常に心をえぐられるシーンです。
バービーの評価としてはこのような評価をする人はいるでしょう。このシーンをどのように捉えられるか、興味深い問題です。
そしてこのような両義的な課題は本作の軸と言ってもいいもので、作品の根幹そのものといってもいいでしょう。
バービーランドの選択
バービーランドと違い「リアルワールド」は家父長制・男社会です。バービーを製造するマテル社も「女の子はなんにでもなれる」としながら、男ばかりで経営陣が埋められています。
「バービーランド」はどうでしょう。「リアルワールド」の鏡映しとも呼べる「バービーランド」は大統領も医者も裁判官もみんなバービーです。ケンはというとバービーの付属品として扱われ、重要な役職に就くこともなく日々過ごしていたのです。
そして「リアルワールド」で男が活躍する世界を観てWokeしたケン(ライアン・ゴズリング)は帰郷した後、バービーを付属品てきなポジションへと逆転し、男性中心主義的な「ケンダム」に変えてしまいます。
そしてその後バービーたちは「リアルワールド」から訪れたグロリアとサーシャに啓蒙され、元の「バービーランド」に戻すべき反動的な革命がおこるわけですが、その方法はケンたちを仲間割れされることによって投票を妨害するというものでした。
そして体制がもとに戻った後、大統領も最高判事もすべてバービーが占めることになった「バービーランド」ですが、ケンはケンでありバービーはそれぞれがバービーであるということをそれぞれ尊重する価値観に目覚めます。
しかしケンの一人が裁判官になりたいと言ってもネガティブな返答であり、しばらくはバービーによる権力の独占は続くのでしょう。
このようにみていくと「リアルワールド」も「バービーランド」も社会構造としては酷似していて、かつ権力を転換させようと考えるひとたちも結局権力についてしまったら地位を手放すことはなく、家父長的な判断をしてしまうということが表現されていると言っていいでしょう。
マテル社の役員と「バービーランド」のバービーは鏡映しの存在です。口では理想を語る一方で実践することはすくないのです。
バービーが女性になること
そういった王政復古ともとれるような反動の後、バービーは自分自身について見つめ直し、人間になることを選択します。
彼女はバービーであり「バービーランド」でなら楽しく暮らせるはずです。老いることもなく、死ぬこともないバービーにとっては理想的な場所なはずです。
しかしそれでも彼女は「リアルワールド」で人間として生きることを選択したのです。
バービーのラストは婦人科に行くというものですが、生殖器のなかったバービーが女性器を得た、つまり女性の身体になったということを確かめに行ったのでしょうか。
なんにせよ老いていつかは死ぬ人間の、そして女性の身体を持って生きるということを美しきバービーが選ぶというラストは、女性の身体をもつ人にたいするポジティブなメッセージと捉えることができるでしょう。
バービーが選択したのは誰かのイデア(そしてイデアの論理でもなく)ではなくて生身の身体だったというのは非常に含蓄の富んだラストです。
PINK!
『バービー』はおもちゃの映画化にもかかわらず、非常に込み入った皮肉が織り交ぜられ高度な作品。
しかしながら誰がみても楽しめる作品でもあります。
特にバービーランドのデザイン。
とにかくピンクピンクピンクと言った色彩ですが、ほどよくおもちゃ感がでているのにぜんぜん安っぽくないです。
とってもかわいいデザインで映像をみているだけで楽しい!
そしてそのピンクという色について。
ピンクは皆さんもご存じの通り(日大の)女の子向けの色というイメージが根強い色です。
例えば歴代のプリキュアはほとんどがピンクが主人公だったりしますね。
しかしジェンダーステレオタイプを強化するということで、女児向け作品のピンクの使用の割合は近年意識的に避けられるようになってもいるのです。
例えばバービーのマテル社のライバル企業であるハズプロの看板商品、『マイリトルポニー』のロゴ。
このロゴはすべてMLPの第四世代のロゴ。第四世代が始まった2010からずっとピンクでしたが、2016年には紫に変更されています。
ちなみに現在続いている第五世代に関しても紫を基調としたものでピンクではありません。
(RYANAがなぜか『マイリトルポニー』について詳しい記事を上げている...)
そして日本でも今年のプリキュアは水色のキャラクターが主人公と設定されていて、今までピンクばかりだった主人公の系譜に終止符を打ちました。
(しかし売れると判断されるのでしっかりピンクはいる)
今回のバービーはそうしたピンク離れのなかでピンクを強く売り出した作品。
なぜピンクをあえてここまで押し出したのでしょう。
バービーがピンクを脱ぐ作品だからという解釈もできますし、逆にピンクの良さを再発見するための作品とも捉えることもできそうです。
こうした色に注目するだけでとってもたのしい作品で本当にいい作品です。
今年世界一売れた作品になるであろう『バービー』
たしかにラストは女性むけではありますが、ケンやアランなど男性に対してもフックになっている要素が沢山あって誰でも楽しめる作品に仕上がっています。
最後に
『バービー』に一番似ている映画は『ミッドサマー』⁉
それにしても感想の意見の割れ方がすごいです。
そういった意味で一番似ている映画は『ミッドサマー』なんじゃないかとわたしはおもってます。
『ミッドサマー』のラストをハッピーエンドとして取るかバッドエンドとして取るかみたいな価値観のズレを『バービー』でも感じることができるでしょう。
『ミッドサマー』が好きな人、『バービー』おすすめです。
だからわたしもどっちも大好きです。
ちなみにどっちもカップルで見るとわかれるそうです。
なのでカップルで見るならケンを演じたライアン・ゴズリングの『ブルー・バレンタイン』をお勧めします。
今回はこんな感じです。
また気が向いたら記事書きます。
それでは~♪